2009年10月09日

御殿様とお香 〜伊達家篇2〜

さて。
昨日に引き続き「お香シリーズ」です。

お香というものは、茶の湯とも縁の深いものでした。
千利休のお茶席でも、仄かにお香の香がした事もあった…という事です。
(これは、「組香の席」
(=昨日ここに書いた「皆でお香を当てる遊び」=現在の香道)というより、
単にお茶席にお香を焚いたという事らしい。言うなれば…BGM的な扱いかと。)

ちなみに千利休は、
かの天下一の伽羅の銘香「蘭奢待(らんじゃたい)」も持っていたとか。
信長から「利休は名物香炉「珠光香炉」を持っているから」という理由で、
一包を拝領しているとの事。
(この「蘭奢待」については、後日別項にて)

茶の湯と言えば…戦国時代から既に「文化の最先端」だった訳で、
伊達政宗公も多いに関心を持ち、自分を磨いた道だったらしい。

で、
このお香についてもそれは同様だったらしく…今日のお題は実はここから。
これも有名な逸話ですが…「一木四銘(いちぼくしめい)の名香」、
元々は一つの香木だけど、四つの名前のあるお香のお話。

細川三斎(忠興)といえば。
細川ガラシャの旦那様として、まず一番有名だろうと思いますが…、
文武に長けた武将で、特に茶の湯や香道についてはかなりの風流人だったと。
(余談になりますが…ガラシャ夫人は明智光秀の娘ですよね。
でもって…かなりの美人、才色兼備だったらしいですね。
なんでも書物によっては、
「戦国一の美貌と名高いお市の方と双璧」とまで書かれているそうな。
三斎はとにかくガラシャ夫人の事となると、
ちょっと(かなり)オカシクなる人だったのも…頷けます(笑。)


で…ここからは、
このお香にまつわる森鴎外の『興津弥五右衛門の遺書』から。

ある時。
数寄者の三斎は長崎に家臣を使わして、珍奇な品など求めさせていた所、
折良く、素晴らしい伽羅の大きな香木が渡って来ました。
三斎の家臣はこれを主君に届けようとしますが…ここで伊達政宗公登場です。

風雅な大名というと…その名も必ず上がる程の政宗公。
その家臣も、この素晴らしい伽羅をみすみす細川家に譲る事はできない。
そこで、値段のつり上げ合戦とあいなります。

で…細川家臣の中で意見が分かれ、
一人は「所詮は木じゃないか。こんなに高値なのを買うのはよくない。
元木(=上質な部分)ではなく、
末木(うらき=やや格下な部分)で手を打とうよ」と言いましたが、
もう一人の家臣:興津弥五右衛門が、
「それでは、珍しいものを手に入れよ」という主命に反する」と
一方を斬ってまで…この名木をゲットしたと。

そして。
三斎は事の顛末を聞き、同僚を斬った責任を取って切腹しようとする興津を止め、
「自分への奉公のためにした事」と不問にし、お香には、

 ■きくたびにめづらしければほととぎす いつも初音の心地こそすれ

より、『初音』と名を付けました。

そして、
のちにこれを後水尾天皇が御所望になり、献上した所、

 ■たぐひありと誰かはいはん末匂ふ 秋よりのちの白菊の花

より、『白菊』と銘名。

そして。
伊達家では。

 ■世のわざのうきを身につむ柴舟は たかぬさきよりこがれゆくらん

より、「柴舟」となりました。


…………あれ?。
これでは…「一木四銘」じゃなくて「一木三銘」という事になりますよね?。
そこで…もう一つの異説を御紹介します。
細川家と伊達家のこの伽羅を巡る争いから、お話は続きます。

このお香、非常に高価になったので(してしまった?/笑)、
結局一家で買うよりも皆で…と相談がまとまり、
伊達、細川に加え、加賀の前田家も話に乗ったと。

で、
お香は上の部分であればある程上質なため、
最上の部分は勅銘を戴くために宮中に献上する事とし、
残りの部分を三等分し、どこを取るかを三家はくじ引きしました。
結果、
一番上が前田家(最後に乗った?前田!強運!、
中の部分を細川家(まあまあかな…、
そして…残念ながら最後を伊達家と(でも極上品だったので、末木でも。

そして。
宮中に献上されたお香は、
 
 ■ふじ袴ならふ匂ひもなかりけり 花は千草の色まされども

より、「藤袴」と銘名。

前田家のは、

 ■きくたびにめづらしければほととぎす いつも初音の心地こそすれ

より、「初音」。

細川家のは、

 ■たぐひありと誰かはいはん末匂ふ 秋よりのちの白菊の花

より、「白菊」。

そして伊達家は、

■世のわざのうきを身につむ柴舟は たかぬさきよりこがれゆくらん

より、「柴舟」と。


これで…「一木四銘」ですね。
細川家と前田家と宮中の歌が入れ替わっていますが…、
さてどれが本当の話かは…歴史のロマンという事で(笑。

でも、
これだと…興津が相役を斬った意味が無いし(結局くじ引きじゃ…)、
また後日、
政宗公はお金を出して三斎から「初音」を譲って貰ったなんて話も。

またまた余談ながら…、
伊達政宗公と細川三斎、なんやかやとエピのある二人。
秀吉の朝鮮出兵に派遣され、漢陽(ソウル)で王羲之の書(写本)を発見。
二人で半分にしたとか(え?一枚を半分にしたの?…。
しかも…今の価値観で生きてないって言っても、それ略奪っしょ…殿!!)とか、
政宗公、お酒弱いのに三斎さん家で大酒飲んで、昼間まで二人寝てたとか…。

激しい性格。戦国の風流人。
そんな所がもしかして…ウマが合ったのかも…知れませんね(笑。

いずれにしても。
この伽羅は非常に素晴らしい銘品であった事は事実らしく、
徳川時代を通じで「無類極品」と称されていると。
個人的には「蘭奢待」と並んで、
できる事なら(できないだろうけど)…「聞いてみたい」と憧れるお香です。


☆2015年12月付記☆
このお香については色々な説があり、この記事が確定ではありません。
今後も調べる中で興味深い事がありましたら、続報をば!。



☆関連事項☆

『御殿様とお香 〜伊達家編1〜』
http://ikiikien.seesaa.net/article/129841193.html

『御殿様とお香 〜伊達家編2〜』
http://ikiikien.seesaa.net/article/129908148.html

『御殿様とお香 〜第一夜、第二夜の補足〜』
http://ikiikien.seesaa.net/article/130217782.html

『御殿様とお香 〜伊達家編3〜』
http://ikiikien.seesaa.net/article/130365621.html


『御殿様とお香 〜信長公と蘭奢待(らんじゃたい)〜』
http://ikiikien.seesaa.net/article/131104083.html
posted by 夏草 at 21:24| Comment(4) | 歴史の周辺 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
始めまして。香木の楽しいお話を読ませて頂きまして ありがとうございます。
お礼に<柴舟>の香木を少量お送りしようと思いますが いかがでしょうか。 
 突然のことで眉につばをつけられるかもしれませんが、よろしければご連絡を頂ければ うれしいく思います。 お返しは、聞香のご感想なりをブログで楽しく公表頂ければと思います。

私は、奈良で250年ほどの歴史を持つ家の家系に生まれ、香木<柴舟>は親父の遺品でございます。今まであまり気にとめていなかったものですが、香道を知ることで、香道が日本の文化として再興して欲しいと思うになりました。 伊達家の仙台とは遠く離れておりますが、 お香の結ぶご縁を頂ければうれしい限りでございます。
Posted by 平野 精治 at 2015年09月09日 01:09
>平野 精治様

この度はブログにコメントをいただき、
また、名香「柴船」について思いもよらないお申し出をありがとうごさいます。

せっかくのお話なのですが…お父様の大切な遺品という事ですし、
やはり見ず知らずの私のような者が戴くのは全くの分不相応と思います。

貴重な名香でもあり、
奈良の地には風雅の道に秀でた方達も沢山いらっしゃると思います。
そのような方々とお楽しみいただた方がお父様へのご供養にもなると思います。
どうもありがとうございました。
Posted by 夏草 at 2015年09月11日 23:59
ご返事を頂きましてありがとうございます。 ご遠慮されるお気持ち承りました。突然でもありますので、納得至極のご返事であると思いますが、 それでも諦めずお送りをしたいと思いますので、ご再考願えませんでしょうか。 仙台の地のご友人なり、何かの催しなりとで、お使い頂ければと思います。
所持します<柴舟>は、20g程の塊でございます。 お送りしても 0.1〜0.2gg程でございます。 まだ100倍程の香木が 残ります。 ぜひ 仙台のご友人と供に伊達家伝来の <柴舟> を聞香されて 話の華を咲かせて頂けませんでしょうか。
お香は、天に通ずると申します。 伊達政宗公も 仙台の地で <柴舟>が焚かれることを何よりも 御喜びになり、望まれていると思います。 いかがでしょうか。ご再考願えましたら 私どものご先祖も供に喜ぶと思います。
Posted by 平の精治 at 2015年09月13日 13:18
このような貴重な文化財の処遇については、
地方自治体等行政に相談される事をお勧めします。

また、インターネット上で知り合った方に対する、
管理人住所等の個人情報の開示、面会等は一切行っておりません。
あしからず御了承ください。
Posted by 夏草 at 2015年09月15日 23:38
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